リプロダクトの場合はシーリー社、ミスティック社、バイロン社などのメーカーが提供しているモールドを使っています。理想のサイズや表情の石膏型がない場合に、アンティークドールから石膏型を取るリプロダクターもいるようです。
創作人形の場合は粘土で顔を作り上げ、防水スプレーを振りかけてから石膏型を作ります。
ビスクドールは原料の粘土(泥漿)を焼くことで磁器となります。この泥漿は市販品を使用、または自分で調合する方法があります。メーカーによっては焼成後、真っ白になるものや肌の色になるがあり、焼き上がりの色はまちまちです。カラースリップ同士、混色することが出来る製品もあります。
磁石粉と水を攪拌し、泥漿を作ります。市販品は保存状態によって水分が不足していたり固まりがあるので、均一になるまで攪拌します。使いやすい粘度した泥漿は一度濾して不純物を取り除きます。
石膏型(モールド)に注ぎ、数分後には排泥しますが、このわずかな時間でビスクの厚さが決まります。石膏型の乾燥具合、泥漿(スリップ)の濃度、気温、湿度によって泥漿が固まる時間は変わるので、とにかく経験を重ねることが大事です。また石膏型へ流し込む際は気泡が出来ないように静かに、かつ手早く行う必要があります。ゆっくり慎重に行うと人形の表面に年輪のような縞模様が出来てしまうためです。
石膏型から泥漿を排出します。磁器の厚みを均一にするために、ストローやゴムチューブから空気を送り、石膏型の中の気圧を高めます。型に残った数ミリの泥を焼成することで人形となります。
3~4時間で脱型が可能ですが、これもまた天候などに左右されます。取り出した人形はグリーンウェアと呼ばれ、柔らかいので石膏型から外すときにうっかり擦ってへこむこともありますが、小さな傷であれば泥漿を塗って直すことが可能です。またグリーンウェアに手を加える場合はこの時に行います。
素焼き後に磨くので、バリや指紋などは特に気にせず作業を進めます。
グリーンウェアが柔らかいうちに頭部・眼・耳・首に穴を開けます。素焼きの前に小さく穴を開けておくことで、その後の作業で大きく穴を開ける際、割れや欠けが生じにくくなります。
エデンベベなどのオープンマウスはこの段階でカットを入れておきます。
その後、水分を飛ばすために3日以上陰干しをします。
数日かけて乾燥させたグリーンウェアは電気炉(キルン)で素焼きを行います。700~750℃と、比較的低温でゆっくり焼き上げるため水分がそれほど蒸発せず、人形の縮みも少ないです。素焼きしたグリーンウェアはソフトビスクと呼ばれます。
素焼きしたことでソフトビスクはある程度の強度を保つことが可能となりました。ここからは目切りやバリ取り、表面の磨き、眼球をはめるくぼみの調整を行います。
研磨する際に石粉が飛散しますので、桶に水を張り、時々人形を水に浸しながら作業します。
ちなみに素焼きしないまま研磨すると、余計に石粉が飛散して吸うと身体に良くないようです。
クリンナップを終えたソフトビスクは本焼きを迎えます。1200~1230℃の高温で焼成することで水分が抜け、約16パーセント縮小した白磁のパーツが出来上がります。
ぎりぎり限界まで窯の温度を上げると、ガラス化によってお顔の透明度の高い、艶のある美しい人形が出来上がります。限界を超えるとへたってしまったり、火ぶくれ(肌の表面近くに気泡のようなふくらみがぽつぽつと出る現象)を起こしてしまったりと、残念な結果となります。
チャイナペイント(紛顔料)を使用します。ミディウム(溶剤)で溶き、肌の色、眉、睫毛、ほほ紅、アイシャドーなど4~6回繰り返します。オーバーウォッシュ(肌色付け)やメイクのたびに焼成し色を定着させる必要があります。
2回目のメイクでは睫毛やアイラッシュ、眉、鼻のアクセント、唇の1回目を塗ります。まつげとアイラッシュを描いた後、グラスアイを、くっつき虫で、留めておかしくないか、確認します。そして、全体を見ながら、眉毛を下書き、唇、と、進めていくのです。
この時点で割れるものもあれば、ヒビが見つかるもの、メイクの気に入らないものも出てきますのでその時はまた一からやり直しとなります。少しずつ色を重ねては焼成していくので同じものは作れないんですね。
完成した顔にグラスアイをセッティングし、ボディをつないで人形の形が出来上がります。ウィッグをかぶせ、下着やドレス、ボネ、靴のデザイン・縫製してやっと完成となります。布花やワックスフラワーの作成やレースや布の染色なども含めると400を超える工程を経て1体の人形が完成します。
ひとり工房 ベベタビトではこれらの工程を経た人形を年間に十数体生み出し続けています。
華やかなフリルに、目を引く色遣いのゴージャスなドレス。憧れますが、実際に着るとなるとちょっと気後れしますよね。ビスクドールなら着せ替えも思うがままで、それも楽しみの一つです。
そんなドレスの製作工程を動画にしました。「スカートのプリーツはそんな風に作るんだ!」「ボタン穴は彫刻刀であけるのね!?」とか、いろんな工夫を発見できます。
アトリエのあちらこちらで忙しく動き回る小さなジュモーも必見です。ご存じでしたか?お人形は動くのです。見てない時に、あるいは見ているときにも。
ドレスの完成を待ちきれないおてんば娘のジュモーですが、実は心に秘めた思いがあって・・・。動画のエンディングでは思わずホロリとしたという声も。10分足らずの小さくかわいい物語も詰まっています。最後まで是非ご覧ください。
アンティークドールが流行していた約150年前、ビスクドールは数多くの手を通して作られていました。
ヘッドのみ制作している工房もあれば、それだけでなくボディや衣装のすべてを制作する工房もあったようですが、工房の職人たちは泥から人型を取り、衣装を着るまでのすべての工程に携わっているわけではありませんでした。
絵付けひとつとっても、たとえば眉毛を描く仕事の人は、眉毛の絵筆のみを持って眉毛専門で描き続けるように、ビスクドールの制作工程は細かく分けられ、流れ作業で行っていたようです。
翻って、現代のリプロダクターは19世紀に比べると制作に携わる範囲がかなり広がりました。衣裳のみ制作している方や、素焼き後のソフトビスクから制作を行う方もいらっしゃいます。
当アートビスクドール館に協力していただいている、ビスクドール作家である旅人容子氏の工房を例に挙げると、泥漿から型を取り焼成し、メイクや衣装に至るまですべてを作家ひとりの手によって担当しています。「すべての工程をわたくし一人の手によって完結できるなんて、いかに幸せなことか」と述べるように、磁器の原材料のどろどろした液体が、形をなし、やがてひとがたが、できあがっていく過程は、何にも代えがたい喜びであるのです。