過去3回にわたりビスクドール初心者のスタッフが見聞きしたことをまとめてきたビスクドールの基礎知識ですが、本日はいよいよ後半戦となるボディについてまとめました。
当初の予定ではボディ編がラストで、以降は各工房と代表的なお人形をご紹介出来たらと思っていたのですが、ビスクドールについて調べれば調べるほど、100年以上前のフランスやドイツでの話を現代日本で得られるということにありがたさを覚えると同時に、まだまだ知らないことはたくさんあるのだなと思い知らされます。
今後も情報を集約次第、ビスクドールの基礎知識と冠して掲載いたしますのでお読みいただけると嬉しいです。
さて、ビスクドールのボディについてです。
「ビスクドールとは」というページで、球体関節人形との違いは必須条件が異なると記載しているのですが、より分かりやすく言うとビスクドールはヘッドが磁器製であれば、その姿が大人であれ子どもであれ、現代的・アニメ的な造形であれビスクドールと分類します。
対して球体関節人形は、ボディの関節部分が球体であれば、ヘッドやボディがどんな素材であろうと球体関節人形となります。
私たちがビスクドールと呼ぶ、19世紀のヨーロッパが初出の少女の姿を模したお人形は、お顔はみんな磁器ですが、実に様々なボディを持っています。以下に代表例をご紹介します。
初期のアンティークドールに見られる、ビスクドールの前身であるファッションドールから引き継いだボディです。
胴体と肘上、そして足全体を山羊の革におがくずを詰め込んだもので作り、ショルダープレートと呼ばれる肩から胸あたりまでのビスクパーツと、肘から指先までのビスク製の腕をつなぎます。
なかなかドレスを脱いだ写真がないので伝聞になってしまうのですが、唯一あった写真集に掲載されていた写真では膝部分に切り込みが入っており、曲げることができるようです。足の指は分かれていませんが、ふっくらした足パーツに指を模したような刺繍があります。(モッチマンタイプと呼ぶそうです)
レオン・カシミール・ブリューの後継者であるアンリ・シュヴロの名を冠するシュヴロボディは、膝下がビスク製となります。またウエストがきゅーっと締まっており、タイトなシルエットのドレスを綺麗に着こなすプロポーションです。
以下にご紹介するコンポジションボディと比較するととても華奢です。
またブリュの手は非常に美しいことで有名です。
写真集を見ているとジュモードールの手先は汚れていたりペイントが剥げていたり、またヘッドと色味が全く異なることが多く、造形も武骨なつくりをよく見ます。対してブリュの手は指先まですらっと伸びていてとても繊細です。関節や指先がほのかに桃色に染められ、白磁の肌によく映える非常に美しい造形をしています。ブリュは肘を内側に曲げて手のひらを上に見せる独特の立ち姿を取るのですが、手先の美しさをよく見ることが出来ますので、ぜひ注目してみてください。
話はシュヴロボディにもどり、工房ベベタビトではこのボディを一部自作しています。
おがくずの代わりにコルク粒を詰めているのですが、改良を重ねお座りが出来る造形となっています。
立位だと迫力のある美しさに圧倒されるようなお人形が、座位を取ると途端に愛らしく幼く見えることはよくあるのですが、お座りのできるブリュの可愛らしさはもう言い表しようがありません。ぜひ実際に見ていただきたいものです。
ミレットサイズやペティートサイズなど、比較的小さなお人形に多く見られるオールビスクボディは実は様々なタイプがあります。
胴体と左右肘上、肘下、同じく左右の膝上、膝下の9パーツでできているもの以外に、リストハンドと呼ばれる両手首を追加した11パーツのもの、手や足が関節から分かれずに一体化したもの、フローズンシャーロットと呼ばれるボディに関節がないものも存在します。
オールビスクボディは小さい人形に限定するものではありませんが、ボディサイズが大きい分どうしても重くなってしまうので、コンポジションボディをつなぐ方が多いようです。
コンポジションとはおがくずにニカワや土を混ぜた練り物です。元はヘッドの素材の一つでしたが、成形の安易さやその軽さからボディに用いられるようになりました。
ジュモードールのべべタイプはコンポジションボディがほとんどであると言われており、扱いに気をつかう美術品の側面が強いブリュのシュヴロボディとは異なり、子どもの遊び相手という面が強く出ているように思います。
プロポーションは全体的に肉付きが良い幼児体形です。特にお腹がぽっこりと出ており、とても可愛らしいスタイルですが、アダルトモデルボディと呼ばれる、胸部の膨らみと引き締まったウエストを持つボディも存在します。
コンポジションボディにもいくつかの種類があり、アンティークドールの中には手首の関節の有無のほか、全身がコンポジションであるもの、手足のみ木製のものが存在するようです。
リプロダクションの場合、手首の関節も入った11パーツからなるボディがほとんどですが、大手供給元のシーリー社の工場閉鎖によって完成品の流通は少なくなりました。
上記ボディの他にもパピエマッシュ(ペーパーマッシュ)と呼ばれるバルブ・石灰・ニカワを練り、張り子状に成型したものや、木製、手足からボディ全体を金属でつなぎ、関節部に蝶番のようなジョイントを用い、また胴を布で包んだものなど様々なボディが存在します。
さて、ここまでボディについて私見を交えつつ解説してきましたが、実はビスクドールの仕掛けは瞳にとどまらず、ボディにも多くの機能を持たせています。
鳴き笛や蓄音機を内蔵させ、「ママ、パパ」とおしゃべりをするトーキングドールやメカニカルドールと呼ばれるもの以外に、歩いたり泳いだりはたまた投げキッスをしたりといった動作機能、ミルクを飲んだりクッキーを食べるといった飲食機能を持たせたものまで実に様々です。
残念ながらこれらの機能が十分に働く状態のアンティークドールは非常に少ないのですが、書籍のほか、YouTubeでいくつか紹介されている動画を見つけました。
次回は多彩な仕掛けについて、写真や動画を交えてご案内いたします。
≪ 参考文献 ≫
西洋人形 / 著 中村公一 名鏡勝朗
THE BEAUTIFUL JUMEAU / 著 FLORENCE THERIAULT