フランス人形の歴史~そもそもフランス人形とは?【後編】~

淑女の寝室を飾ったブドワールドール

(画像:The 西洋人形、読売新聞社より)ブドワールドール。主に布地で作られたクロスドールの一種。(画像:The 西洋人形、読売新聞社より)

1915~1930年頃、女性の私室(寝室)のベッドやソファを飾る用途で、ブドワールドール(ブードゥア)いうものが、フランスをはじめとしてイタリア、アメリカ、イギリス、ドイツなどで作られました。ブドワールとは、「淑女の私室」というフランス語です。子供の姿をしたビスクドールから一転、ブドワールドールで再び大人の姿に戻るわけです。

以下は引用ですが、「ブドワールドールは通常布製のボディに引き伸ばされたような脚、布やコンポジションを素材とした頭、表情は大抵手描きで、四肢がセルロイドやコンポジションのものあります(*9・意訳)」。
これは、磁器製の肌にガラス眼をはめ、子供の愛玩用だったビスクドールとは好対照です。

大正ロマン―和製フランス人形の出現

舞台は転じて日本。和製フランス人形のお話となります。
吉良智子氏の『近現代日本における人形の創作およびその受容に関する研究』によると、和製フランス人形の創始者は上村露子(かみむら つゆこ)氏という女性運動家で、なんと日本初の女性探偵社を設立した方でもあるそう。
同研究によれば「1920 年代、内縁の夫との西欧歴訪の折、パリでいわゆるフランス人形を目にした上村は研究の末ジョーゼットによる人形のマスクを作ることに成功した。特許を得たこの手法は一般に和製フランス人形が普及していくきっかけにもなった。(*10)」とのことです。
ジョーゼットとは縮緬生地の一種です。この大正ロマンの頃の和製フランス人形の写真を見たかったのですが、残念ながら見つけられませんでした。

高度経済成長期、日本で起きたフランス人形ブーム

時代は高度経済成長期、日本にフランス人形ブームが訪れます。この頃のフランス人形は、ガラスケースや樹脂製ケース入りのインテリア用で、見た目は少女漫画のようでした。
詳しくはフランス人形コレクターで著書多数、人形作家でもある宇山あゆみ氏の公式サイト(http://ayumiuyama.com/)がためになります。
冒頭のブドワールドール同様、顔(マスク)が布製、表情は手描き、スラリとした体型で、鑑賞用のお人形という点まで同じですが、しかしその容貌は写真でお分かりのように、西洋人然としたお顔から、私たち日本人に馴染みやすい表情に変わっています。

和製フランス人形(画像:The 西洋人形、読売新聞社より)

和製フランス人形(画像:The 西洋人形、読売新聞社より)

この理由として先述の宇山先生へのインタビューが、大手小町という情報サイトに載っており、(高度経済成長期頃のフランス人形が)「豪華な中にも親しみやすさを感じるのは、マスクの原型を作っていた人が、キューピー人形も手がけたことがあったからだそう。おでこが広く、ふっくらとした頬で童顔、大きな頭にボディーは小さく、すらりと長い足で、少女漫画の登場人物のようなフォルムをしています。(*11)」と述べられています。
ちなみにベベタビト人形館にも、キューピー人形の産みの親ローズ・オニールによるキューピー人形の、レプリカがありますが、なるほど茶目っ気ある表情の親しみやすいこと(!)。

ビスク製のリプロダクト・キューピー(旅人容子氏作)。
ビスク製のリプロダクト・キューピー(旅人容子氏作)。
ローズ・オニール氏が考案したキューピー。
ローズ・オニール氏が考案したキューピー。
玉ねぎみたいな頭にくりくりお目々が可愛い。

フランス人形は絶滅したのか?

フランス人形の歴史を振り返ると、栄枯盛衰の繰り返しであったように思えます。
その素材も革や布から、磁器製になったかと思えば、先祖返りするようにまた布製に戻り、海を越えて日本にやってきてブームを起こした・・・。
そしていまではそのすべてが、レトロ、アンティーク品となり、眼にすることは少なくなりました。
しぶとく姿を変えて生き抜いてきたフランス人形は、その歴史をついに終えてしまったのでしょうか?

おわりに―現代

以前、当人形館を訪れたある子供さんが、小さなお人形を握りしめていました。現代風のお洋服に、すらりとしたプロポーション、少女漫画風のつぶらな瞳、ハイティーンのような顔立ち-リカちゃん人形でした。私はハッとしてしまい、昭和レトロのフランス人形が視界をかすめた気がしました。彼女らもリカちゃん人形のように、描かれた眼に流行服を着た、大人の体型でしたから・・・あるいはブドワールドールも、はたまたファッションドールも・・・。
もちろんすぐ自分の考えがすぐ馬鹿らしくなりました。なぜならリカちゃんを生んだ株式会社タカラトミーによれば「海外の着せ替え人形がほとんどだった時代、『リカちゃん』は”本当に日本の女の子の喜ぶ人形が作りたい”という思いから誕生しました。(*11)」とのこと。その累計販売数は「2017年時点で驚異の約6000万体(*12)」。誇るべき、日本の女の子のためのお人形がリカちゃんなのです。

流行したフランス人形もビスクドールもいまや気軽に手に入らず、歴史の名残となったかに見えますが、人形愛好家の一人としてはこう思いたい気もするのです。リカちゃんには影響していなくとも、その市場形成の面で・・いやそんな小難しいことでなく、過去と今をつなぐ鎖の一つとして、フランス人形が息づいていればいいなと。初秋の夕暮れ、人形館に並ぶ200体のビスクドールを眺めながら、そう思ったのでした。

≪ 参考文献・サイト ≫

*1:パンドラ(人形),wikipedia、Fashon doll,Wikipedia

*2:西洋人形アンティーク・ビスクドール:中村公一、
明鏡勝朗、講談社 1982、P83-84

*3:Kate Nelson Best, The History of Fashion Journalism

*4:The 西洋人形、読売新聞社、1983、P118

*5:魅惑の西洋人形、学習研究社、1987、P18-19

*6:同上、P16

*7:同上、P21

*8:同上、P110

*9:Doll Reference

*10:近現代日本における人形の創作およびその受容に関する研究、吉良智子

*11:ちいきの、こえが、みえるサイトチイコミ!

*12:日本経済新聞,2017.7.4「リカちゃん」愛されて50年 SNSで人気復活.

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